お笑い論①

前回のブログで、主語を大きくすることの弊害を書いたのに、無視して題名は大きめで設定してみる。

「お笑い論①」(今後、継続すると思って①。)

 

まず。いや、わかりません。わかったふりをすることすら怖いので、冒頭でわかりませんと書いておきます。

そもそもどれだけ均質化された価値観をもつ日本人同士であっても、笑いのツボは人それぞれなので、あまりそれを一般化したところで意味合いは薄いと思っています。

 

なので、個人的な見解で。かつ、具体例をもって。

例示する時点で、それは私がおもしろいと思っているものとして抽出されているものです。なので、それはそもそもおもしろくなくない?は、無し目でお願いします。

 

■千鳥のindeedのCM

youtu.be

観たこともあるだろうし、リンクした動画で改めて観てもらうことになったのかもしれないが、これはやっぱりおもしろいと思う。

あまり爆笑してしまうという類ではないかもしれないが(私は初見は爆笑した)、なんかフフッてなってしまう。

フフッてなる点の箇条書きと、だからかなって思う理由。

 

・まず、大悟とノブの仲の良さがにじみでている。

 →楽しそうにしているグループをはたから見ていると楽しく感じる現象。混ざりたい。自分もそんな、二人の世界観で幸せそうにできるパートナーに憧れる。実際、メイキング映像みると、取り巻くスタッフは笑い声ひとつ発せず、二人だけの世界。

・大悟のボケがどうしてボケになり得るか、一瞬とらえきれない。

 →約4~5秒の尺しか与えられておらず、これまで蓄積した二人の関係性やその他背景があったうえに成り立つボケは不可能。旅館なのか、すし屋なのか、タクシー内なのか、だけ。がゆえに、その3シーンの情景に追いつくためだけに視聴者は1秒くらい要する。その1秒後、やっと理解した情景に対し、一瞬そぐわない一言を大悟が発する。大悟からしたらかわいそうだが、そのボケでは笑えない。笑えないというか、観ている側が追いつかない。

・ノブのツッコみが1センテンスながら状況説明と"否"を兼ねる。

 →置いてけぼりにされた視聴者向けに、「大悟の不可思議な発言は、やはり長らくその情景にいた相手(ノブ)からしても、おかしい」ということをノブが代弁してくれる。代弁してくれることで、「やっぱ、そうだよね!」の共感が視聴者に訪れるとともに、「そうであるなら、その発言おかしいやろ!」の会話としての否!の代弁も続いてノブがしてくれる。

・声。

 →大悟の声が、明確。ロープがついているか否かが不明な状況でバンジージャンプを飛び降りている感覚が大悟にはあるのだろうと思う。なのに、めっちゃ真っ逆さまに飛び降りる。だからバンジージャンプのスタッフ側(視聴者側)も、「ロープついてるだろ、多分。」と、根拠のない安心感を得る。ボケに頼れる。声が明確だから。そして、ロープがついていようと無かろうと、とにかく下にクッションを何重にも敷き詰めて一命を取りとめようとする役割のノブの声。むしろ逆に、猛スピードで落下してくる大悟を、トランポリンのごとくバネではじき返すほどの、明確なツッコみでの応答。ノブのツッコみの間と声質と発声のスピードが、多くの視聴者の心の声を代弁をする。いや、視聴者は言葉にできていないけど、大悟の一言で発生した心のもやもやを顕在化させ、否!を言語化させ、適切なボイスで発してくれる。ノブがツッコんだあとにわかる。そう、大悟のボケのそこが引っかかってた。

・ツッコみのワード

 →ノブのツッコみワードセンスは光っていると思う。間違いない。だけど、ノブがあのボケを受けた後1秒後に、瞬時にひらめいてあのワードを選択しているのではないと思う。おそらく、大悟とノブは高校生からの同級生ということもあり、ノブからすると、大悟のボケの性質・クセが手に取るようにわかるのだと思う。そして、高校時代からの蓄積で何万・何十万とデータベースが拡張している。もしかしたら、大悟の顔色を見ただけで、ノブにはこのあと発せられる大悟のボケのパターンがわかるのかもしれない。だから、経験値や実績があるから、1秒後にツッコみがでる。しかも、一番大悟のボケを活かす形のものが。かつ、ノブのツッコみがさえていると思うのが、蓄積されすぎたデータを悪用せず、二人だけの閉じられた世界のツッコみをしていないこと。ちゃんと、大悟のボケの特異さを世に伝える観点で、ワードを選択している。あっぱれと思う。

・千鳥というコンビの安定感。

 →これは土台として一番重要だったのかもしれない。お笑いって極論、何を言ったかではなく、誰が言ったかの世界だと思う。何を言ったかの蓄積で、その"誰"になれるのだけど、一度安泰をきずいた"誰"は、観る側の安心感が違うし、"誰"をきずけなかった芸人は、失笑を誘い続ける。千鳥の安心感は、つまりブレイクしたからなのだけど、ブレイクする過程においては、「クセがつよい!」だったのだと思う。大悟のクセの強いボケに対し、ノブはツッコみを重ねていった。重ねていったツッコみは、ボケのクセが強い時点で、それを世間とつなぐインターフェースとして活用している時点で、クセのつよい観点にならざるを得ない。そのクセの強さを磨いていったノブは、他の吉本の先輩の発するボケはクセのまったく無い直球にうつっているのかもしれない。直球が飛んできた場合、ノブのツッコみ(声色・ワード選択)はクセの強い返しになる。そういう道を生きてきたから。それは、ノブからしたら直球の返しだけど、クセの強い返しをされた先輩芸人や視聴者は、クセのある球と感じ、あっさりとリターンエースをとられる。大悟のボケでクセを感じさせ、ノブのツッコみでクセを感じさせる千鳥は、いつしか視聴者からしたら、やみつきになるほどの、クセを放つ"誰"にランクインした存在になったのだろう。